<メンバー>
たろー、ふみふみ、toriya、toyoちゃん、もっちゃん、おりえ、いさお、おすぎ、やはてぃー
<コース>
トヨタ自然学校(7:40)~馬狩料金所(8:05)~P1386(11:25)~三方岩岳(12:35~13:05)~鶴平新道分岐(14:30~14:50)~トヨタ自然学校(17:10)
なかなか手頃な雪山山行が立たないなー、と週末引きこもり生活を覚悟していた3月初旬、谷川岳(爼嵓山稜)1泊2日の予定が、悪天候の予報で三方岩岳の日帰りに転進。これはまさに求めていた手頃な雪山!突如現れた蜘蛛の糸に僕は嬉々としてしがみついた。しかし三方岩岳というのは聞き慣れないが、めちゃくちゃ威嚇してくる名前である。なにしろ三方が岩なのである。山頂部がピストンにでもなっていない限り、アイゼン履いての岩登り必至かもしれない。それって大丈夫か?でも参加条件は技術初級だし、鬼が牙で散々アイゼントレしたし、行ってみるか。
三方岩岳は、白川郷のすぐ東にある山だ。登山口へ向かう途中で合掌造りが沢山見えたが、雪が全くなく、皆が期待するような、雪がこんもり乗った姿とは程遠かった。恐らく観光客も少ないと見られ、どことなく閑散としているようであった。地元住民としてはその方が暮らしやすいのかも知れないが。ただ、登山口まで行くと標高が上がり、積雪は十分であった。
登山口から直ぐに本格的な急登に、全員わかん装着。流石は豪雪地帯、あっという間に膝付近まで埋まるほどの雪深さとなる。これが本格的なラッセルかー。今まで深い新雪を歩いたことのない自分には新鮮であった。先頭のたろーさんは急斜面でもすいすいとトレースを刻み進んでいく。
その姿に自分もやってみたいと思い、先頭を代わってもらった。まっさらな雪面に踏み出すも、足元の雪が崩れて次の一歩が出ない。たちまち踏んでは崩れ踏んでは崩れの蟻地獄状態に。ナニコレメッチャシンドインデスケド…。どうやらかなり勢いよく踏み込んで足元の雪を固めないといけないらしい。
急斜面なので脚を高く挙げないといけないし、その脚にも湿った雪が粘り付きずっしりと重い。シャラポア並みに声を漏らしながら踏み込んでやっと、のろのろ進めるといった具合である。心肺ではなく筋肉への負担が物凄い。「さぁ、続いては雪の急斜面、果てしなく続くそれは白銀の大海原か大砂漠か!おおっと筋肉が限界かぁ?まさに乳酸地獄だぁ~!」頭の中のF館I知郎も叫びだす。
僕は必死、後ろは渋滞。迷惑なのでさっさと交代してもらった。皆さんのラッセルを見ていると自分のような必死さは伝わってこない。自分の筋力が無いのか、技術が足りないのか、あるいは皆さんのポーカーフェイスが上手いのか、よく分からないが経験を積むしかない。
かれこれ2時間くらい登っただろうか、山頂が望める小ピークで休憩となった。ん?おりえさん達が謎の道具で何かをせっせと制作している。見るとやたらと完成度の高い雪だるまとアヒルが何体も鎮座している。
「そんな道具計画書に書いていたっけ…?」そうたろーさんにつっこまれても「これは登攀道具です!」と言い切るおりえさん。え、ええ…そうですよね…登山道具は日々進化していますからね…。何しろあの大空でさえ白から青に変えてしまう方、人が黒と言ったものを白に変えることなど朝飯前である。
なおも登り続けると間もなく視界が開けた!抜けるような空とどこまでも白い雪は目に沁みるほどだ。後ろには穂高から立山連峰までがその白い稜線を覗かせている。そして何よりも風がほとんどなく、汗ばむほどの陽気!こんな穏やかな雪山があって良いものか。これ以上良いコンディションなんてない!そう思えるほどのベストオブベストコンディションであった。
そんな中、山頂に近づくにつれ、周りの風景はどんどん非現実的なものになっていく。すごい風景だ。稜線上に点在する雪庇は、どれもちょっと信じられないほど芸術的な曲線を描いている。谷へと落ちる雪の急斜面は余りに平滑で、吸い込まれそうな錯覚に陥る。雪山の風景はほとんど青と白と黒だけで、日常の風景よりむしろ単純な構成のはずである。さらに人間の生存に適した環境でもない。にも関わらず美しいと思うのは何故だろうか。やっぱり人間は非日常的なものに惹かれてしまう生き物なのかも知れない。
山頂直下ではおりえさんが先頭を譲って下さり、最初に山頂に立たせて頂いた。何て優しい方なんだろう…。この時僕は後に背負うことになる代償のことなど知る由もなかった。
標識が雪に埋まった山頂は、何だか自分たちだけのピークであるような気がして愉快である。山頂の一角からは東の展望が開け、大きな大きな白山がどっしりとその姿を現した。それは名前通りどこまでも白く輝く清廉さと、横綱のような威厳を併せ持った風格であった。何だこの最高のシチュエーションは。いい大人が皆、子供のようにはしゃいで何度も何度も写真を撮り、その風景を記憶に焼き付けた。
時間に余裕が出たのとテンションが上がったので、隣の野谷荘司山まで周遊することにした。しかし野谷荘司って誰?地名に名前を残す位だから、さてはワシントンとかホーチミン級の偉人か?(注1)
そんなShojiまでの稜線は、右に白山、左に北アルプスを望みつつ新雪の中を進む、それはそれは贅沢なルートであった。結局、三方岩岳の山頂を北から南へ通過する形となったが、北面にも南面にも岩場は無く、平和なルートであった。三方岩岳の奴、さては盛ったな!(注2)
途中、緩やかなアップダウンで、再度先頭でのラッセルを体験することに…。登りでは凄くしんどかったなー、またF館さん出てきたら嫌だなー、と不安な気持ち半分で先頭に。力を込めて最初の一歩を繰り出す。ナニコレメッチャキモチイイ!平坦、または緩やかな下りのラッセルは。筋肉への負担が少なく、むしろ最高の贅沢である。決められた道ではなく。自由に進む感覚が最高である。ああ僕は鳥だ、さよならみんな、今までありがとう…。
最高に贅沢な稜線歩き
Shojiの山頂直下まで来たが、流石に時間切れということで、下山ルートをとる。個人的にはここまでの稜線で十分満足したので未練は無かった。さよならShoji。また会う日まで。
しかしこのShoji、ここからが曲者であった。下り始めからいきなり高度感のある急下降でビビらせた挙句、最後は踏み抜き地獄を用意して皆を困らせた。途中、前転するような形で雪に手足を取られた時は、上下も分からなくなって本当に焦った。踏み抜きからの復帰は、消耗した筋肉にはかなり辛い。そんなこんなで散々苦しめられたが、何とか登山口まで戻ってくることができた。
下山後は恒例の山行記誰が書くかジャンケンである。ここでおりえさんからまさかの一言「山頂先頭で行かせてあげたんだからやはてぃー、分かっているよね。」おお、そんな交換条件聞いてないですよ。新人ということで担当になるのは覚悟していたし、書いても良いと思っていたが、その切り口は予想外であった。何しろあの大空でさえ白から青に変えてしまう方、人が黒と言ったものを白に変えることなど朝飯前である。
今回、初めてのラッセルということで、かなり筋肉に堪えたが、最高に刺激的で楽しい山行であった。雪山と一口に言っても、クラストであったり、パウダースノーであったり、今回のような湿雪であったり、いろんな性格があり、それぞれに応じた装備や歩き方がある、そんな雪山の奥深さを体感できた、貴重な休日となった。素晴らしい山行を計画して下さったたろーさんはじめ、終始盛り上げて下さった皆さんありがとうございました。
(注1)野谷荘司山の「野谷」は麓の集落名、「荘司」とは「純白」の意があるそうです。人名ではありません。Shojiとか言ってごめんなさい。
(注2)山頂付近に「加賀岩」、「越中岩」、「飛騨岩」という三つの国の方向を向いた岩壁があるそうです。盛っているとか言ってごめんなさい。
記)やはてぃー
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